ライター歴1年10ヶ月、初めて読者の「イタコ」になれた瞬間
おかげさまで「文章を書く」ということが仕事になってから1年と10ヶ月。初めて自分の中でブレイクスルーした瞬間があったので、そこで感じた教訓を書き残しておく。
僕は今、10+αのウェブニュースサイトで記事を書いたり、ひとが書いた記事を編集したり、媒体をイチから立ち上げる仕事をやらせていただいている。
ずっと好きな分野だったマーケティングやITに関わるトピックを取り上げることもあれば、ビジネス、グルメ、アートなど、書く対象となる話題はさまざまだ。
ある一本のコラム記事
今年の3月にJ-CASTニュースでこんな記事を書いた。
アディダスが運営する「世界中から優秀な人材を集めるサイト」
http://www.j-cast.com/kaisha/2013/03/05168032.html?p=all
スポーツブランド アディダスが、ドイツにあるグローバル本社での社員採用を目的として立ち上げた、リクルーティングサイトを紹介するコラム記事だった。
デザインやインタラクションなど、いわゆるクリエイティブだけに興味があった頃の自分なら、このサイトを「ウェブの表現」という切り口で書いていたかもしれない。しかし、僕は途中で切り口を変えたのだった。
ちょうどこの頃、僕は東京からシンガポールに移ったばかりだった。そのときの僕は、まさにこのリクルーティングサイトのターゲットである、海外への転職を目指すビジネスパーソンに、とても近いシチュエーションにあったと思う。
そんな状態でこのサイトを眺めていくと、ウェブの表現とは異なる箇所が目につくようになった。
サイトには、グローバル本社の魅力だけではなく、ドイツという国の歴史、住宅事情、医療や保険制度など、そこに住む人なら知っておきたい情報が満載だった。
だから僕は「海外で働く=生活環境を変える人のための情報設計」という切り口で書き直した。
書いている途中で、読者にツッコまれた気がした。
きっとこのコーナーをいつも読んでくれている読者には、ウェブの表現なんかに興味がある業界人は多くない。もっと普通のサラリーマンだ。しかも、(コメントを読んでもらえれば分かるけど)ひとクセある人たち。
そんな読者の人たちに「いきなり海外で働くチャンスが巡ってきたとして、英語も話せない家内やその親をどう説得すればいいんだよ。しかもドイツってどこだよ」、そう突っ込まれた気がして、途中で切り口を変えた。
それまで、記事を公開した後でコメント欄やいいね!数を見て、「あー、切り口が違ったかな」と反省することはいくらでもあった。でも、公開する前に「読者はこう反応するんじゃないか」とリアルに想像できたのは、このときが初めてだった。
このときほど筆が進んだことは、どの媒体、どの記事でもない。そしてこの記事以降、このコーナーで記事を書くことがとてもスムーズになった。読者の人たちのひとクセが僕にうつったように、前よりも彼らの気持ちが分かる気がするのだ(編集担当の方には迷惑をかけ続けているけれども)。
これが、編集業界の先輩方のいう、読者の「イタコ」になるという感覚なのか。
こういう感覚を、これから一つでも多くの媒体、記事で積み重ねていきたい。日頃お世話になっている、編集担当の方に感謝。
参考書籍
MEDIA MAKERS - 社会が動く「影響力」の正体(田端信太郎氏)
「R25」のつくりかた(藤井大輔氏)